駿河国 三保ノ松原にて
昔々、三保に伯梁という漁師がおりました。
ある日のこと、伯梁が松の枝にかかっている美しい衣を見つけて持ち帰ろうとすると、天女が現れて言いました。「それは天人の羽衣です。どうかお返しください。」
ところが伯梁は「天人の羽衣なら、お返しはできません。」と言いました。
すると天女は「その羽衣がないと天に帰ることができません。」と言って懇願しました。
伯梁は天上の舞を舞うことを約束に羽衣を返しました。
天女は喜んで三保の春景色の中、羽衣をまとって舞ながら、富士の山に沿って天に昇っていきました。
「いや疑いは人間にあり天に偽りなきものを」
りんとした涼しい優美な声で天女は伯龍に申しました。
「羽衣を返し興うれば少女は衣を着しつつ霓裳羽衣の曲をなし」
謡曲”羽衣”
謡曲“羽衣”は当神社由緒(二神降臨)を物語り訛したと言われ、天女が羽衣を脱ぎ掛けた松“羽衣の松”は当社正面松並木参道の海岸にあります。
“羽衣伝説”は日本各地にありますが、三保の松原を舞台としたものが本曲であり、多くの人々から親しまれてきました。また、富士山は蓬莱山と言って仙人が住む山と考えられ、三保の松原は昔から富士山への入り口・架け橋のような存在でした。
天女と地元の漁師の出会いが美しく語られる”羽衣伝説”は昭和初期、文部省の「小学国語読本」にも採用されています。